一コマ漫画ゼミ 第一回

第一回お題
この絵にキャプションまたはタイトルをつけてみよう

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第一回一コマ漫画ゼミ。2011年4月26日開催。
第一回お題の回答と講評など(文責・堀井憲一郎)

今回は、ジョルジュ・ピロシキ先生の描いた「二匹の怪獣がビル街で暴れている絵」をもとに、ここに「タイトル」ないしは「キャプション」をつける、というお題が出されました。4月26日の3限と4限、部室隣の会議室でゼミが開かれ参加者は20名弱。お題の事前の提出者は32名で65本、当日出席者でその場での提出も含めると70以上。そのなかで、ピロシキ先生と、堀井が中でも出来のよいものを4つ選び、それを参加者の挙手による投票で順位を決めました。今回のゼミでの最優秀作品は以下のものです。

最優秀作
フロイト談:「この夢、超エロい」
(OB・山田周平)

次点はこの作品。

優秀作
「ユニクロユーザー狩り」
(4年・近藤涼午)

第三位優秀作はこちら
「地産地消」(2年・大畠彗子)

あと最終に残った2つ

「新人研修」(8年)

「激安食べ放題(2時間780円)」(3年・笠原知美)

おもしろいけど、これ何でも使えそうなので、最終選考に惜しくもおちたもの。
「がんばろう、ニッポン!」(2年・前田翼)

以上が今回の優秀作です。

以下、みなさんのお題回答を出しておきます。

名前を明記しようかともおもったんですが、とりあえず回答だけを独立して読んでみてください。名前が入ってると、ああ、あの人が、という先入観で回答を見てしまいがちになるので、純粋の回答を見て、ああ、こういうふうに考える人もいるのか、というのを味わっていただければいいかとおもいます。●で1人ずつ。横に並んでるのは同一人の提出のものです。

●「ジャンクフード」「サプリメント」「人間ナゲット(チキンナゲット)」
●「人類の喧嘩は俺等が食う」(夫婦喧嘩は犬も食わない、をかけたものです)
●「人間仕分け」
●「厳選の一品」
●題名「エイプリル・フール」せりふ「特撮ですのでご安心ください。」(画面中央で左の怪獣を指してる人)
●「お母さん、これキラーイ」「我慢して食べなさい、最近余ってるの人間くらいしかないんだから。」
●「待ってっ! あなたのペット、ウイルスに感染してるかも?! 」
●「日常+1」
●「いただきmass!ただしイケメンに限る!」
●『黒澤明監督、幻の次回作の構想ノートより本人自筆のイメージカット』
●『「理性・幼児性・忍耐・協調性、みんな性欲と食欲に喰われちまった」と諦念。』
●「民主主義 ガラのデカさにゃ 敵わない」
●(絵中央の指さしてる人間のセリフ)「このビルどうやって入るの?」(絵中央の指さしてる人間のセリフ)「左の恐竜の股間隠せてないよ!!」、タイトル「十把一絡げのリアクション」、タイトル「フードファイト」、タイトル「ユニクロユーザー狩り」
●「キッズペイント:かいじゅう」
●「電力会社のペット二匹、檻から脱走」
●「ウォーリーをさがせ!」
●「食糧自給率100%」
●「有機無機」
●「ウォーリーは食べられた!!」
●「いくら俺らだって建物は壊さねーよ」「血も涙もないやつらを喰らったまで」
●「デジモンアドベンチャー」
●「じっくりとたっぷり」(”左は1人しか人間をつかんでないのに、右はいっぺんに沢山人間を口に入れてたので、左は味わって食べる怪獣で右は一気に食べたい大食い怪獣なのかと思いました!”)
●「サプリメント」「選挙」「顧客獲得競争」「飽食」
●「生鮮食品」
●「ゲルニカ」「人の子を産み、吐き出す機械」「リヴァイアサン」「エロティックパーク」「ジョルジュとピロシキ」
●「人間食ってもビル食うな」「どっちがたくさん食えるか勝負だ!」「人がいっぱいいる」「格差社会」
●「こっち側は汚染されてるから食わないほうがいい」「CO2削減」「この国の経済状態も落ちてるな。肉の味が落ちた」
●「でつくしたでしょ!?」「右が食ってて、左が出してて」『怪獣と人間とビルが書かれているから「三すくみ」』『下の人は両手を挙げて喜んでるようにも見えるから「光臨」(降臨)』
●「堕落」「キャピタル」「ただちに健康には影響はない」「リバウンド?」「可食部」「ぜいたく!!」「資本主義」「ぐりとぐら」(ジョルジュとピロシキからの連想)→それを受けて「眉毛のついてるほうがグリだっけ?」
●「ダイエット中!」「新人研修」
「新人研修」を受けて
「先輩が食ってからじゃないといただけません」
「(左)こういうの、食っていいんですか?」
●「映画ドラえもん のびたと怪獣大虐殺」「チッチとサリー」
●「齧歯類」
●「2匹目は想定外」「アメリカ軍はまだですか」「飽食の時代」
●「番組で起用されたエキストラの方はスタッフが美味しくいただきました」
●「服を脱がせると、歯に引っ掛からないよ」
●「同窓会」(左)「おれも先生になったんだぜ、田中」
●「給料三か月ぶんの人間です」「マザー牧場」
●「ふれあいコーナー『自己責任』

講評

(ジョルジュ・ピロシキ先生が話したのをもとに、堀井がまとめています。その講評のおりでも、ジョルジュ先生と堀井が交互に同じ話題で語ってたので、以下の本文もジョルジュ先生&堀井の言葉が完全に混ざってひとつの人格になっての講評だとおもってください。)

全体として、さすが漫研らしく、いろんなアイデアが出てきて、楽しい出来上がりでした。若い人らしい発想で、なかなか面白いものがでてよかったです。
印象としては、オーソドックスで素直な回答があまりなかったですね。たとえば、この「食べ放題」というようなのが、もっとも素直な回答だとおもうんで、もう少し重なるかとおもったけれど、それほど出なかった。
やはり一つの絵を見てずっと考えてると、その絵の存在が前提になってしまって、回答も「その絵を見慣れた人がおもしろがれるもの」になってしまうんですね。

でも、いきなりこの絵を見たときに、すっと受けるのは、実は、素直な回答のほうだったりする。
いわゆるベタ、というやつです。ベタな発想のほうが、実は受ける。
漫研はある意味マニアの集まりなので、漫研受けはするけど、世に出すとさほど受けないものもあったりする。ちょっと考えすぎ、ひねりすぎ、ということが起こるから、やはり「ベタ」な感じ、すごくオーソドックスで素直な感じも大事にしてください。もちろんひねったものも大事だけれど、ベタなものも大事だということです。みなさんの傾向として、ベタなものは避けてるというところがあるとおもうので。

あと、発想のとっかかりとしてはとてもいいんだけれど、でも、もう少し頑張っていくつか考えれば、というのがありました。
たとえば「サプリメント」とか「生鮮食品」とか、とっかかりとしてはすごくいいとおもう。
でも、それだととっかかりだけで、発想した入口までなんですね。サプリメントと見たときに、じゃ、どんなセリフにすればもっと効果的に伝わるのか、笑いにつながるのか、そこの工夫が必要です。
発想は一瞬のおもいつきなんですが、それを作品にしていくときには、やはり試行錯誤が大事なんです。

それが今回よく表れたのは次席の近藤涼午くんの作品。
彼はおもいつくたびに堀井の携帯あてに1つづつ回答を送ってくれたわけだけど、
まず午前2:32に「このビルどうやって入るの?」
2:36に「左の恐竜の股間、隠せてないよ!」、
2:41「十把一絡げのリアクション」、
2:42「フードファイト」ときて、
2:55に「ユニクロユーザー狩り」がやってきた。(履歴が残ってるので、受信時刻がわかる)。
最初のをおもいついてから、いちおう30分にわたり考え続けて、5つめにやっといいアイデアが出た、というのがよくわかる。近藤くんの発想は、言ってしまえば「絵に対する批判」みたいなもので、つまり、この絵の変なところを見つけて指摘してるだけなんですね。
最初は「ビルに入口が描いてない」という指摘。次が「恐竜とビルの位置関係がよく見ると変」という指摘。指摘っていうと聞こえがいいけど、要は絵の批判というか、絵にイチャモンをつけてるだけだからね。そのあと「リアクションがみんな同じだよ」という絵の批判が続いて、いちどフードファイトと横にずれるけど、やっぱり最後には、服の色の塗り方が妙だなとおもって、やはり絵へのイチャモンだったわけです。が、ユニクロユーザーまでやってくると、別の地平に出て、しかも他にはない発想なので、みんなに受けた、ということです。
この絵をみた瞬間に「ユニクロ」はなかなか出てこない。でも「絵にイチャモンをつける」という態度を諦めずに繰り返してるうちに、こういうアイデアが出てきたわけですね。粘り勝ちです。アイデアはこうやって出てくる、という見本みたいなできあがりでした。

ちなみに、ゼミ参加員の挙手によって1位2位3位を決めたのですが、1位のフロイトは男子ばかり手を挙げ、2位のユニクロは女子ばかり手を挙げ、つまり男性支持と女性支持に分かれて、男子の参加者が多かったので、フロイト山田周平の優勝となった、という経緯がありました。

首席の山田周平くんにしても、最初に送ってきたのは
「黒澤明監督、幻の次回作の構想ノートより 本人自筆のイメージカット」
だったんですね。
そのあと、もう1つとおもいつきましたと言って、フロイト談、が送られたきたわけです。この周平くんの発想も、どちらも同じですね。つまり、この絵じたいがリアルに起こってることだとは捉えないという発想。何かしらの構想とか、夢とか、この絵のリアルさを否定しよう、という発想は変わってないわけです。でも、考えると、次に出てきたほうが洗練されていたということ。
ある発想を得て、それがおもしろい、とおもったら、あきらめずにそこからいくつか考えると、より面白いものが出てくるという例です。
山田君も近藤君もそういう訓練を何かでやってんだとおもう。(山田周平はラジオのハガキ職人として鳴らしてたらしいから)。
つまり、自分の発想がおもしろいとおもったら、自分を信じて、もうすこし粘って考えてみる。無理して、あと、3つ4つ出してみると、ある瞬間にぽーんと抜けてすごくおもしろいものに突きあたる可能性がある、てことです。

そうやってがんばってみよう。

一コマ漫画は、アイデア勝負です。どれだけおもしろいものが考えられるか。
絵も、もちろん大事じゃないわけではないけど、でも、まず発想とアイデアです。絵も、アイデアをどれだけ邪魔しないか、というシンプルな絵柄が求められていきます。
一コマ漫画ゼミは、そういう意味で、発想トレーニングゼミでもあります。「知的ゲーム」だとおもって参加してもらえるといいとおもいます。
ギャグマンガを描かない人でもその発想のトレーニングは、何を描くにも有効だとおもうし、そもそも漫画を描かなくても、働いて、何かアイデアを出せ、と言われるときに使える発想力の鍛錬にもなりますね。企画力というやつです。

ま、そんなに大仰に考えずに、気楽に参加してもらえばいいんですが。

第二回は、「無人島マンガのアイデアを出してみよう」です。

一コマ漫画講師・ジョルジュ・ピロシキ氏(漫研1984年入学)の一コマHPです。http://homepage3.nifty.com/pirosiki~cartoon/